「英国リンカーン城と姫路城そして花見」

 今から30年ほど前の春の報告です。 
 担当のガスタービンの事業が軌道に乗り始めました。最もエネルギー利用効率の高い発電システムが熱電併給方式(COGEN)です。一般の発電所のエネルギー利用効率が38%、最新鋭のコンバインドサイクル発電で50%程度ですが、COGENは80%~100%近い効率が得られることから当時から盛んに採用されるようになってきました。ガスタービンはイギリスから輸入し、国産の熱回収装置と組み合わせてCOGENをお客様に提供するビジネスモデルです。

 本事業の中核となるガスタービンメーカーは英国の東部リンカーン州の首都リンカーン市にありました。何度かこの街を訪問し、観光もしました。リンカーン聖堂(高さ160m)とリンカーン城が有名です。リンカーン城は1000年前に築城された古城で丘の上に聳え立っていました。チェスゲームの一列目両端に配置されている城型駒をルークと言いますが、城跡のあちこちにルークがあります。日本のお城の櫓(やぐら)と同じ機能ですね。傷んだルークもありましたが立派なお城で、地元の人々に愛され維持=保全されていることがわかりました。大聖堂も荘厳ですごかったですが、私はなぜかルークが残る城跡に惹かれました。


 発注したタービンが日本に半年ほど遅れて到着しました。従業員のストライキが遅延理由でした。彼らにしたら正当な理由らしく、決して謝りません。日本の顧客には我々はこっぴどく怒られます。船便をやめて、航空便に変更して少し挽回しました。仕様打ち合わせのために英国人技術者が来日します。勿論、彼らは遅延したことには一切触れません。大阪にある本社から工場のある高砂へ移動します。大阪駅から新快速電車に乗り、明石駅付近に来ると私の小さないたずら=仕返しが始まります。車窓から見える城址を指して「桜がきれいですね。ここは500年前にできた明石城です。ここに石垣やルークはあるが天守閣はないでしょう。なぜだかわかりますか。第二次世界大戦で連合国軍の爆撃でこの地区は壊滅したのです。」とだけ短く解説します。英国人はすぐに状況を理解し、申しわけなさそうにうなだれています。してやったりです。英国人にとっても城郭は特別な意味があり、その戦争被害の話は理解できたようです。

 高砂工場での打ち合わせが終わるとご褒美の観光です。今度は桜満開の姫路城に案内し、花見と洒落ました。見事な天守閣といくつかの櫓が目を奪います。姫路市も米軍の空襲を受け、姫路城は天守に命中した焼夷弾が発火せずに焼失を免れたとの話が残っています。明石城で充分痛めつけたので、空襲がなかったからこんなにきれいなお城が楽しめるみたいな為話はあえて花見の宴席ではしないでおきました。存分に騒いで桜の下でこんなに楽しい花見は英国ではできないだろうと自慢話はしました。ところが別れ際の一言に驚かされました。「英国にもリンゴの木があり花見をする」というのです。白いかわいい花がさくことは知っていましたがリンゴの木の下で秋に花見をしている姿は想像できません。どこまでも簡単には負けを認めない大英帝国人の意地みたいなものがそこに見えました。

遠藤憲雄(JRMN会員)

コメント

  1. Mark より:

    Thanks for your blog, nice to read. Do not stop.

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