手押しポンプ

手押しポンプ(大阪・法善寺水掛け不動にて)

昔子供のころ家の庭にあった。夏は冷たく、冬に温かい、優れものだった。〈朝顔に つるべ取られて もらい水〉で雅な印象の釣瓶井戸よりは楽だったが、水道が我が家にやってきたら、すぐ使わなくなってしまった記憶がある。それがまだ大阪のど真ん中に残っているのは懐かしく、うれしい限りだ。機械式で、構造もシンプル。停電の心配もない。地下水脈さえ絶えなければ近代的な上水道のように渇水(降水不足)の心配もない。この優れものを誰が発明したのか調べたことがあるが分からない。ガリレオ(1564~1642)以前からあったことははっきりしているが、ダヴィンチ(1452~1519)ではない。両者の間に生きた鉱山学者アグリコラ(1494~1555)が鉱山の排水用として手押しポンプの構造図(部品詳細図)を残してい。(デ・レ・メタリカ)彼の発明の可能性はあるが、確証はない。名もない市井の民が工夫したものを学者が磨き上げたというのがロマンがあっていい。ちなみに紀元前のギリシャのクテシビオスやアレクサンドリアのヘロンなどが〈吸い上げポンプ〉とか〈押上げポンプ〉を発明したようであるが、これらは貯水タンクが前提で、地下水を直接〈吸み上げる〉手押しポンプとは違うものである。

撮影:宮崎隆介(JRMN 会員)