リレーエッセイの寄稿の要請を受け、日頃、物書きに縁のない私が、「さて、何をテーマに?」逡巡していると、突然、読書好きの妻(何に興味があるのか知らないが、毎週図書館から複数冊の本を借りてくる)が、「今読まないで、いつ読むの」と一冊の本を渡してくれた。
それが、「なぜ新型コロナを止められなかったのか(リチャード・ホートン著 青土社)」
著者は、英国の医学雑誌「ランセット」の編集長、主に感染者が多発する西側諸国を中心にパンデミックに至る各国の対応を詳細に分析し、国際的なレベルで対策を講じる必要があることを提言しています。新型コロナウイルスを次のように特徴づけている。
1)矛盾に満ちたパンデミック
※1. COVID-19が引き起こす病気に関してはいまだによくわかっていないことが多く、パンデミックの抑制
が困難
※2. 「新型コロナウイルスの拡散における深刻な不手際と隠ぺいにWHOが果たした役割を調査する間、
WHOへの資金拠出を停止する」トランプ米大統領
2)政府の組織的不作為と公職者の思慮を欠いた怠慢
※1. COVID-19もインフルエンザとそう変わらないという認知バイアス
※2. COVID-19がもたらした中国人へのあからさまな人種差別
3)科学者たちが積み上げていくエビデンスと政府の行動の間のギャップ
※1.「我々はグローバリズムの思想を退け、愛国主義に基づいて行動する」トランプ米大統領
※2. 助言するのは科学者、決めるのは大臣
わが国の対応にも共通するところが多く見受けられ、この1年の新型コロナウイルスに関する「WHOの対応をめぐる主な動き」と「COVID-19のキーワード」を思いつくままランダムに列記してみる。
年月日 | WHOの対応をめぐる主な動き | COVID-19のキーワード |
2019 12.31 |
中国が「武漢市で原因不明の肺炎の集団感染確認」とWHOに報告 |
パンデミック、ステイホーム、オンライン教育、ITインフラ、教育格差、デジタル・トランスフォーメーション、リモートワーク、分散型社会、マスク、手洗い、3密回避、ニューノーマル、PCR、ワクチン、重症化リスク、基礎疾患、高血圧、陽性率、感染者数、死者数、医療崩壊、緊急事態宣言、クラスター、ソーシャルディスタンス、ロックダウン、東京2020大会、中国武漢、WHO、米中対立、Go Toキャンペーン、資本主義、自然環境の回復、気候変動、変異ウイルス,SARS、MERS、巣ごもり、行動変容、ストレス、コミュニケーション、ポストコロナ、雇止め、女性不況、DV、性犯罪、自殺者、母子世帯、貧困、食品ロスメンタルウェルネス、プラスチックごみ問題、人流 |
2020 |
中国の専門家グループが新型コロナウイルスを検出 |
|
2021 1.27 |
独立調査パネル(委員会)が中国とWHOの初期対応の遅れを指摘 |
COVID-19のキーワードを書いているとCOVID-19が出現する前に私たちが議論していた将来に関わる多くの問題―貧困、栄養不良、教育格差、男女の不平等、気候変動、海洋汚染、戦争や紛争―など持続可能な開発目標(SDGs)に紐づくことに気づかされた。
SDGsは、私たちが将来世代と結んだ約束であるが故に、人類の持続可能な発展という目標の達成に向けた歩みを、COVID-19を理由に止めてはならず、多面的なものの見方が重要となる。
久保田俊美(JRMN会員)