砂像・ハーメルンの笛吹き男(鳥取砂丘・砂の美術館)
グリム童話と思い込んでいたが、これはグリム兄弟が 19 世紀中ごろに「ドイツ伝説集」として採録した伝承の一つ。
この砂像の場面の前に、鼠退治の話があり、町中の鼠を笛で招き寄せ、川で溺れさせたが約束の報酬を拒絶され、復讐として今度は子供たちを笛を吹いて招きよせ、連れ去ってしまうという、メルヘンというには暗すぎる話である。しかし、この話は世界中に広がり、ハーメルン市の観光の目玉になっており、ゆかりの建物、通り、銅像などが散らばっているそうだ。この伝説は奥が深く、1284 年 6 月 26 日の歴史的事実がもとになっているが、今日においても確定的な解明はされていないという。この伝説の研究が、阿部謹也著「ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界」(ちくま文庫。平凡社初出。)に詳しく、興味深い。
人間は楽しいことは思い出として残っても、〈ああ、楽しかった!〉で済んでしまうが、悲劇は、人それぞれの内に沈潜し、物を深く考えさせるところがある。この伝説もハーメルンの都市の歴史と深くかかわっていて、当時の自然的・人為的厄災にたいする人々の思いが析出していると指摘されている。生きるということはリスク(大小の悲劇のたね)と切っても切り離せないものであるけれど、どう向き合うかで試されることを思いたい。
撮影:宮崎隆介(JRMN 会員)